『動物と人間の世界認識』日高敏隆(ちくま学芸文庫07/9)を読む

 サブタイトルが「イリュージョンなしには世界は見えない」。

 動物の世界認識は,ほぼ遺伝的に決定されている。著者はネコやモンシロチョウ,ハリネズミやカブトムシ,ダニなどの生態観察から,彼らにはかれらの認知する独自の世界があると言う。
 彼らの感覚で知り得る環境は,かれらの生活にとって必要なものから構成されている。そして必要ないものは,彼らにとっては無いものと同じだ。
動物はそれぞれの種によって、環境をイリュージョンしている。あるいはイリュージョンなしには動物は世界(環境)が見えないと、著者は語る。

この説は大変面白いが、素朴な読者にとってはかえって煩瑣なものを感じさせられた。この話はもっと簡単にしても良いのではないか。
 例えば,地球上のこの世界はほぼこれこれという状態になっている。その地球上の動物は,かれらとかれらの子孫のそれぞれが、生存に必要にして十分な環境条件のなかで、それを保ちつつ種の生存を図っている。そのあり方は種に依ってそれぞれ異なる。
 例えばネコやモンシロチョウなどなどの場合にはこれこれしかじかだ、という具体例が示されるーという方が解り易い。

 この、種に依って世界への対応が違うのは、イリュージョンが違うからだということまでは解るが,そのイリュージョンなしには世界が存在しないかに語られると,少し戸惑う。

 何れにしても,人間の存在の仕方にまで想いが及ぶ、単なる生物のお話ではないという、興味津々の物語。(10/6)