『動物園というメディア』渡辺守雄ほか(青弓社00/8)を読む

動物園とは何か,と聞かれても明確な答えはできなかったと思う。あそこは自分が子どもの頃に連れて行かれ,結婚後に自分の子ども(そして孫)をつれて行くところだ。何の為に,それは野外リクリエーションだろう。
 この一冊は,動物園が情報発信基地として何をしているか、の視点で書かれている。

18世紀にヨーロッパで生まれた動物園は,王侯貴族が世界各地から収集(収奪)して来た動物コレクションを、単に珍奇なものとして扱わずそれの価値を明確にしようとした。
動物学,分類学や博物学の寄与は当然それら自身の発展をも促した。動物園は植物園とおなじように自然史博物館を構成する重要施設であり,大学や研究機関の付属施設となっていった。

一方日本では、1868(明治元)年薩長明治天皇政府が成立し、ヨーロッパに追いつこうとするさまざまな施策が次々と実行されて行ったが,動物園の内容については江戸期の興行的な珍獣扱いから,画期的な質的転換が見られなかった。
  日本最初の動物園は1882(明治15)年につくられ、開園1年で22万人以上が訪れた。所管は内務省および農商務省で,物産館的殖産振興政策が伺われる が,収集動物は百点未満。1886(明治19)年に所管は宮内省に変わる。上野公園の全域約66ヘクタール(約20万坪)が御領地とされたためだ。この動 物園と云う言葉は福沢諭吉が作ったと云われる。
 しかし動物園を皇室直轄のものとしながらも、国民に対する天皇イデオロギー強化の為に有効活用しようというには、かなりに中途半端だった。
 やがて上野動物園は1924(大正13)年に東京市に下賜され、新宿御苑内の動物園は1924(大正15)年に廃止された。
 以後しかし動物園は子ども相手の娯楽施設の側面をつよくもちながら運営される。

 第2次大戦下では、米軍の空襲で動物園の猛獣などが逃げ出さないようにと、動物の薬殺が行われ、それは戦後演劇等でも取り上げられた事件とされた。
 しかし1988年,全国84の動物園に5,840万人が訪れ,10年後の1998年には全国88の動物園に4,570万人が入場した。日本は今や世界でも有数の動物園活動が行われている。
ただそれを伝えるマスメディアの動物園観は、前近代的に娯楽施設か行楽地として固定化されがちで、それに加えて視聴率稼ぎに動物を擬人化したクイズ番組やお笑い番組などがTVにも溢れている。

 世界動物機構は《世界動物園保全戦略》で、21世紀の動物園・水族館は、希少動物の保存と環境教育をおこなう自然保護センターとした。これはかなりに広く問題を捉えているので,さらに具体化するとこうなる。
 1・自然(動物)認識に通ずる,市民野外レクリエーションへの寄与。
 2・野生動物の保全と社会への情報提供。
 3・動物学の推進と社会への情報提供。
 4・自然と人の共生をめざした、市民の環境学習と自然観の育成。

 この本は,7人の大学教授などと,2人の動物園勤務者によって書かれているので多少の重複などはあるが、以上が本書の非常に大雑把な内容となる。
 あらためて、動物園とは何か?を考える内容。